遊びの効能

この場ではずっと遊びの重要性を論じてきましたが、定性的な部分に寄っていました

今回は定量的な部分、特に脳、筋骨格系、感覚器/神経系への良い影響を整理してみます
(あくまで一部分であり、人間ではなくラットを含めた動物での研究も含まれますが、参考例として。)

1. 脳の構造の変化

遊びは脳の容積を増やし、情報伝達のスピードを物理的に向上させるようです。

器質的変化の内容具体的な現象代表的な出典(論文・書籍)
前頭前野の回路強化ニューロンの樹状突起(枝)が複雑に増え、意思決定や感情制御の回路が太くなる。

Pellis & Pellis (2014)


"How play makes for a more adaptable brain"

シナプスの最適化遊びによる刺激で、必要な神経接続が強化され、不要な接続が整理(剪定)される。

Janusz, et al. (2002)


"Experience-dependent development and the role of synaptic pruning"

情報伝達の高速化神経線維を包む「髄鞘(ずいしょう)」が厚くなり、脳内の通信速度が向上する。

Chaddock-Heyman, et al. (2018)


"Physical Activity and White Matter Microstructure in Children"

記憶の器(海馬)の増大身体活動を伴う遊びにより、記憶を司る「海馬」の容積が物理的に増加する。

Erickson, et al. (2011)


"Exercise training increases size of hippocampus"

2. 筋骨格系の構造の変化

成長期の「機械的な刺激(重力や衝撃)」が、体の筋骨格系に影響を与えるとされています。
(遊びというよりは「身体運動」という観点になっています)

器質的変化の内容具体的な現象代表的な出典(論文・書籍)
骨密度の増加ジャンプ等の衝撃により、骨の内部密度が高まり、皮質骨(外側の層)が厚くなる。

Fuchs, et al. (2001)


"Jumping improves hip and lumbar spine bone mass in children"

神経筋ユニットの構築脳から筋肉へ指令を出す「運動単位」の動員数が増え、筋肉を効率よく動かせるようになる。

Myer, et al. (2011)


"The Effects of Integrative Neuromuscular Training in Children"

関節の安定性の獲得多方向への動きにより、靭帯の強度が増し、関節軟骨の代謝が活性化される。

Haapasalo, et al. (2000)


"Amount of lifelong physical activity and bone mass"

3. 感覚器と神経統合の変化

五感から入る情報を脳で処理し、四肢を含む活動とのやり取りの精度に良い影響がありそうです。

器質的変化の内容具体的な現象代表的な出典(論文・書籍)
脳内の身体地図の精緻化固有受容感覚(手足の位置感覚)が刺激され、脳の体性感覚野に精密なマップが描かれる。

Ayres, A. J. (1972)


"Sensory Integration and Learning Disorders"

小脳のネットワーク強化回転やバランス遊びにより、小脳や前庭系の神経回路が密になり、平衡感覚が鋭くなる。

Scholz, et al. (2009)


"Training induces changes in white-matter architecture"

自律神経系の調整能力触覚刺激や適度なストレス(遊びの緊張感)が、迷走神経の働きを物理的に改善する。

Field, T. (2010)


"Touch for Health and Rehabilitation"

その他の器官やシステムにおいても特筆するような結果も出ているので紹介します。

システム器質的な変化の内容具体的な現象代表的な出典(論文・書籍等)
視覚システム眼軸長(眼球の奥行き)の伸展抑制屋外の光刺激がドパミン放出を促し、眼球が前後に伸びすぎて「近視」になるのを物理的に防ぐ。

Rose, K. A., et al. (2008)


"Outdoor activity reduces the prevalence of myopia in children"

循環器系末梢の毛細血管密度と左心室の容積拡大激しい遊びが心臓のポンプ機能を高め、全身の隅々まで酸素を運ぶ血管網を物理的に増設する。

Strong, W. B., et al. (2005)


"Evidence based physical activity for school-age youth"

内分泌・神経系ストレス受容体(HPA軸)の最適化スリルや緊張を伴う遊びにより、脳内のストレスホルモン受容体の密度が調整され、不安に強い神経系が構築される。

Sandseter & Kennair (2011)


"Children's risky play from an evolutionary perspective"

呼吸・口腔系顎骨(がっこつ)の発達と気道の確保多様な発声や咀嚼、全身運動による呼吸の変化が、顎の骨の幅や口腔周囲の筋肉を物理的に発達させる。

Lanyon, L. E. (1993)


"Using functional loading to influence bone mass and architecture"

免疫系T細胞の多様性と微生物叢(マイクロバイオーム)の構築土や自然の中での遊びを通じて多様な菌に触れることで、免疫系の「識別能力」が器質的にプログラミングされる。

Hanski, I., et al. (2012)


"Environmental biodiversity, human microbiota, and allergy"

この中でも特に目の部分については注目したいところです
例えば、近視は単なる「ピントのボケ」ではなく、眼球が物理的に引き伸ばされて変形してしまう器質的な問題です。Rose博士の研究は、屋外での遊び(日光浴)がこの変形を物理的に食い止める「ブレーキ」になることを証明し、世界中の近視対策に影響を与えました。

現代においてはスマホを筆頭に光源となる画面を近距離で見る機会がとても増えています。面白いのはその液晶画面の使用時間を変えずとも、屋外遊びが近視を抑制する可能性を示唆している点です。しかも1時間程度で良いということですから、これは朗報のように思います。どうしても子どもの健康のことを思えば画面使用の時間を制限しがちですが、それよりも屋外で焦点を変えることや光を浴びることで目を守れるならば、そういう環境を作ることが望ましいですね。

学校や家では制限される大声を出すことも、土を触ることも、たくさんの良い点があることが言及されています。

ここではあくまでも遊びの効果について分かっている研究結果の一部を示しましたが、ここで紹介したもの以外にも有形無形のメリットは本当にたくさんあります。これまでこの場で述べてきた定性的な主張にこういった背景が加わることでより遊びが社会的に意義を為すということが分かっていただけるのではないかと思います。

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