フランク・ジョーブ氏、何を想う

肘関節の内側側副靭帯の再建手術、通称"トミージョン手術"を考え出したフランク・ジョーブ氏が3月6日に他界しました。
Famed surgeon Jobe dies at 88

同氏の歴史や手術については後述や各記事に譲るとして主張したいことを先に述べたいと思います。

最近のトミージョン手術からの復帰は早すぎる気がします。私がアメリカに留学した時は12ヶ月というのがスタンダードでしたが、最初の"実験者"トミー・ジョン氏は1年9ヶ月後に復帰しました。今でも最低1年はかけるべきというのが私の見解です。

これまで私が関わってきた例を見ると、おそらく9ヶ月ほどでも復帰はできるでしょう。ただ、再受傷の危険はものすごく高い気がします。移植した腱がきちんと骨や周りの組織に馴染んで靭帯として機能するには2年はかかるという報告もあります。

つまり、同手術においては手術やリハビリの良し悪しに関わらず、"生理学的に"2年はかかるというのが正当な見方だと思います。1年で復帰したとしても復帰後の1年はイニング数や球数の制限を設ける必要があると考えます。ジョーブ氏は『早く復帰する近道はゆっくりとリハビリすること』という言葉を残しています。

それにも関わらず、最近では1年未満で復帰"させる"ケースがほとんどのように思います。リハビリに費やす時間と再受傷率には何らかの相関があるような気がするのですが、データないですかね?

そしてもう一つ気になるのはあまりに成功率が高まったが故の手術率の高さです。(ウィキペディアでトミージョン手術を見ると行った選手の多さに驚く。) アメリカでは大学生はもとより、中高生にも同手術が当たり前のように適用されます。日本の肘の専門医に話を聞いたことがありますが、手術しなくても復帰できるケースというのはかなり多いそうです。

再建した靭帯は元の靭帯よりも強固になり得る為、手術歴のある選手の方がない選手よりも評価が上がる場合もあるとか。これはいかがなものですかね。切れたら手術すればいいみたいな安易な思想になりつつある気がします。

もちろん、我々に求められるのは手術を選択肢に入れないためのマネジメントです。球数、休息、体の使い方、コンディショニング、いろいろなことを考えて怪我に至らないようなマネジメントが大切です。まだまだ勉強しないといけませんね。


以下、トミージョン手術とフランクジョーブ氏について。

1974年にトミー・ジョンという投手に初めて移植手術を行い、第一線での復帰を果たしたことでその投手の名前を取って"トミージョン手術"と名付けたのは他でもないジョーブ執刀医だった。自分の名前を付けないところがなんとも憎らしい。尚、同投手はその後14年間メジャーで活躍し続けた。

ちなみに同手術は肘関節を跨ぐ上腕骨と尺骨に穴を開け、そこに長掌筋の腱を通して靭帯として機能させる手術。手の親指と小指をくっつけて少し手首を曲げると手首の前に細く浮き出てくるのがその腱である。ちなみにこの筋を持たない人もいるようです。そういう場合は足底筋というふくらはぎにある細い筋の腱を使うようですが、これまたこの筋を持たない人もいるそうで。。。(そういう場合はどうするんでしょうね。)

当初5%以下の成功率と言った手術で見事に数百人もの野球選手が競技寿命を延ばした。(ちなみに弟子と言われたルイス・ヨーカム氏も昨年他界した。)

殿堂入りが毎年囁かれているが、現在のところ特別表彰という形までになっている。ただ、この度の死を受けて殿堂入りも有り得るのではないかと思っている。(画家や音楽家の様に死後に生前の評価が上がることがあるのではないか。そういう意味では同手術は一つのアートだと思う。

何においてもやはり第一号というのはすごいもの。最初に靴を履いた人、最初に鶏卵を食べた人、最初に空を飛んだ人、、、現在では当たり前の行為でもやはり最初に行った人は偉大である。私は何かにおいて第一号になることが出来るだろうか。

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